バイオマス事業BIOMASS BUSINESS

メタン発酵肥料の技術開発

鶏ふんをメタン発酵させ肥料化する、インターファームの特許技術

前述の通り、インターファームでは2017年より鶏ふんをメタン発酵し肥料を製造する技術開発に着手しましたが、2019年にはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の『バイオマスエネルギーの地域自立システム化実証事業』に採択され、助成を受けて研究を進めることが出来ました。
その結果、メタン発酵には適さないとされていた「鶏ふん」を単一原料として、安定的・継続的に鶏ふんをメタン発酵させる技術と、さらにその発酵物からこれまでにない高肥料成分の有機肥料を製造する技術を確立しました。2022年11月に、『鶏糞のメタン発酵方法及び鶏糞肥料の製造方法』で特許(第7180881号)を取得しています。

化学肥料原料の輸入相手国と輸入量 特許証

NEDOの助成を受けた実証実験では、横型乾式のメタン発酵実験装置を用いて、生鶏ふんの固形物濃度を20%に調整した試料(原料)を用いて、毎日、5ℓの試料を片側の投入口より投入し、発酵槽内を30日間掛けて逆側の排出口に押し出されてきた発酵消化液を、毎日5ℓ回収することを基本動作として実施しました。回収された発酵消化液の肥料分析を行った結果、成分含有率(乾物換算値)の平均値は、『窒素全量で8.33%』、『リン酸全量で5.27』、『加里全量で4.05%』となり、メタン発酵によって肥料成分に優れた発酵原料を製造する技術を確立することが出来ました。
なお、特記すべき内容として、大半の事業として行われているメタン発酵は発生するメタンガスを燃焼させて発電することを目的としていますが、インターファームでは、発生ガスを発酵残渣を乾燥、造粒して固形肥料を製造するために活用することを考えています。
実際には実験が必要ではありますが、机上の熱量計算(「発生ガスから得られる熱量」対「余分な水を乾燥するに必要な熱量」)では、鶏ふんを単一原料としてメタン発酵させた場合に肥料製造に必要なエネルギーは、発生ガスでほぼ賄える結果となりました。

◎NEDOの実験に用いたメタン発酵実験装置

NEDOの実験に用いたメタン発酵実験装置

◎メタン発酵による高付加価値発酵鶏ふんの製造

メタン発酵による高付加価値発酵鶏ふんの製造

◎鶏ふんのメタン発酵物(30日後)の肥料成分分析結果

鶏ふんのメタン発酵物(30日後)の肥料成分分析結果

◎システム全体の流れ

システム全体の流れ

◎物質収支の概要

物質収支の概要

なぜ、これまで鶏ふんはメタン発酵されていなかったか?

鶏ふんの中には、肥料の窒素成分となる「尿酸」が多く含まれています。鶏ふんをメタン発酵させると、発酵の過程で尿酸がアンモニア(NH3)に変化し、水と反応するとアンモニア水(NH₄+OH)になると発酵槽内の消化液のpH値がどんどん高まり強アルカリ性になっていきます。
メタン生成菌はほぼ中性付近のpHを好むため、pH値が8.5付近を超えるとメタン生成菌の活動が止まりことにより発酵も維持できなくなります。このような理由から鶏ふんはメタン発酵させるには、水で3〜5倍に希釈する必要があるとされており、非効率であるためメタン発酵原料としては不適とされてきました。
インターファームのメタン発酵方式では、横型乾式の発酵槽を用いて、30日間を掛けて鶏糞の投入側から反対の排出側に連続的に押し出していく仕組みを取っています。排出側ほど発酵が進みアンモニア濃度とアルカリ性が高くなりますが、メタン発酵に悪影響が及ぶ以前に排出することや、鶏糞に合った菌を養生するなどの工夫によって鶏糞を高い固形物濃度(20~25%)のままメタン発酵させる技術を確立することができました。

これまでの好気発酵による鶏糞肥料と何が違うのか?

生鶏糞をそのまま肥料として田畑に使用するといろいろな弊害(悪臭、作物の生育障害、雑草種子の混入など)があるため、微生物により堆肥化した鶏糞が現在も広く使用されています。鶏ふん堆肥を作る方法(堆肥舎、ロータリー/スクープ式攪拌装置、コンポスト)にはいくつかありますが、これらの方法は、好気性菌が鶏糞をまんべんなく速やかに発酵させるために空気(酸素)と良く触れさせるために攪拌する仕組みになっています。鶏ふんを好気発酵させると、発酵中に水分や揮発しやすい成分は徐々に逃げてしまい、肥料として適度なレベルまで発酵させると、発酵前に比べ3分の1から4分の1にまで減量し、窒素成分(アンモニア)など肥料の有益成分もかなり失われてしまいます。発酵は開放された条件で行われるため、悪臭や発生ガス(CO2、NOx、SOxなど)がそのまま放出されることになり、また、気温が下がると発酵が進まないなどコントロールが出来ない問題があります。
メタン発酵では、メタン生成菌が酸素を嫌うため、空気が入らない密閉された発酵槽内にメタン生成菌の培養液に有機物の原料を投入して発酵させます。発酵の過程でバイオガス(通常の場合、メタン(60~70%)、二酸化炭素(30~40%)、酸素・窒素・硫化水素等(微量))が発生し、燃料ガスとして回収され利用されます。一方で、微生物分解された固体や液体の内容物は発酵消化液中に留まるため肥料として有益な成分(アンモニア等)は失われません。また、密閉した容器内で発酵させるため、衛生面や環境面においてもクリーンに保て、槽内の環境を人為的に整えることで安定した発酵を維持することが出来ます。

これまでの好気発酵による鶏糞肥料と何が違うのか?

なぜ、鶏ふんは肥料原料として優れているのか?

畜産動物の代表格として、牛、豚、ニワトリが挙げられ、古くからその糞尿は堆肥として活用されていますが、それぞれ特長があります。ニワトリの場合、鳥類の特徴として消化器官が短いため摂取した餌の7割は未消化のまま排出されます。そのため栄養分が多く残っており、他の動物糞尿に比べ、肥料の3要素の窒素、リン酸、カリがバランス良く含まれています。
なお、鶏ふんには他の動物堆肥(牛ふん、豚ふん)よりも肥効が早く現れる特長があります。鶏ふんに含まれる「可給態窒素」(微生物の作用により無機化される窒素)には速効的(7日以内)に効くものが高い比率で含まれているとともに、ゆっくりと土壌中で分解され地力窒素として働く両面が期待できます。(メタン発酵の場合は、可給態窒素の量や構成は、好気発酵とは異なってくる。)
ニワトリの飼料(特に、採卵鶏)は、トウモロコシや大豆かす、ふすまやミネラル(鉄、マグネシウム、ニッケルなどの微量要素)が適切なバランスで配合されています。メタン発酵の場合は、発酵過程では一定の環境下で管理され、窒素、リン酸、カリ等の肥料成分は喪失せずそのまま発酵消化液内に保持されるので成分含有量の安定した肥料が製造できます。

◎鶏糞の肥料価値(ニワトリの餌と消化・排泄解説図)

鶏糞の肥料価値(ニワトリの餌と消化・排泄解説図)

鶏の飼料の配合例

◎動物排泄物と食品残渣に含まれる成分の特長

動物排泄物と食品残渣に含まれる成分の特長

そもそも「メタン」とはどんなもの?

メタン(CH4)は、天然ガス(都市ガス)の主成分で自然界にも多く存在しています。無機炭素化合物から化学反応や有機物熱分解からもメタンは生成されますがその80%はメタン生成菌(嫌気条件でメタンを合成する古細菌の総称)によるものです。
メタン生成菌は田んぼや沼地の泥の中や、深海堆積物、動物の腸管内などに生息していますが、「酸素がない環境下」で、水素と二酸化炭素、酢酸、メタノールなど炭素を1個しか含まない化合物(C1化合物)からメタンを合成することにより生体エネルギーを作りだし生存・繁殖しており、有機物分解の最終分解者とも言えます。
メタン生成菌は地球に現れた最古の生命体のひとつで、古くは35億年前には深海の熱水環境に生息していたとの論文もあります。35~25億年前の地球は、太陽は現在よりも2~3割暗く、輻射熱も弱かったにも関わらず温暖であったとされています。それはメタン生成菌によって発生したメタンガスの大気濃度が高まり、その温室効果(二酸化炭素の25倍)によるものと推測されています。やがて光合成生物が登場し、生物の進化とともに大気の組成のダイナミックに変化していったと考えられています。
メタンを完全燃焼させると、水と二酸化炭素が生じますが、植物が光合成から炭水化物を合成し、その炭水化物をメタン菌が発酵させ、発酵により生じたメタンを発酵時に生じた酸素と燃焼させると元素循環が成立するためメタンは燃やすことによりカーボンオフセットが成立することになります。

◎光合成~メタン発酵~燃焼仮定での物質循環

光合成~メタン発酵~燃焼仮定での物質循環

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