肥料をめぐる状況
肥料をめぐる状況
農地では、作物を育てるために肥料が使われます。山野では自然の中で植物に必要な栄養分が循環しており季節折々の植物が育ちますが、田畑では収穫により土壌中の栄養分が減ってしまうため肥料を施してやる必要があります。
日本のカロリーベースの食料自給率は平成28年以降は「37~38%」で推移しており、海外依存度が高いですが、化学肥料の原料についてもそれ以上に海外に大きく依存しています。
肥料の三大栄養素である「窒素(N)」、「リン(P)」、「カリ(K) 」の主要化学肥料原料をみると、窒素原料の尿素はその約95%が、リン酸やカリ成分の主原料である「リン安」と「塩化カリ」についてはその100%が海外からの輸入によって賄われています。
過去に見る化学肥料の価格変動
2022年5月に経済安全保障推進法が可決、成立し2023年から段階的に施行されることになりました。戦略物資の調達を海外に依存するリスクを減らすことを目的に、11分野が「特定重要物資」に指定されましたが、「肥料」もその中に指定されています。
特定重要物資 | 肥料、半導体、蓄電池、永久磁石、重要鉱物、工作機械・産業用ロボット、航空機部品、船舶関連機器、クラウドプログラム、天然ガス、抗菌薬 |
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日本は化学肥料の原料を海外からの輸入に大きく依存していることを述べましたが、過去20年において、大きな肥料の国際価格高騰を二度経験しています。一度目は、米国の「2005年エネルギー政策法」により、自動車燃料にバイオエタノール(原料;トウモロコシ)を混合するように義務づけたことから2007年から2008年にかけ穀物価格が高騰し、肥料の国際価格にも影響が及びました。さらに中国2008年5月に、肥料の輸出に100~120%の特別関税を課したため肥料価格はさらに跳ね上がり、深刻な肥料の供給問題が生じました。
■肥料原料価格の推移(2007~2023年)
二度目は、つい最近の2021年で、肥料の最大の輸入先である中国がコロナ感染拡大とゼロコロナ政策の影響で、労働力や電力の不足、物流の停滞が生じ、肥料製造能力が低下したことから国内供給を優先するため10月に肥料輸出に対する「法定検査」の制度が緊急導入されました。このことにより中国からの肥料輸入は事実上ストップし、国内は深刻な肥料不足に見舞われました。
また、同時に円安の進行や、物流やエネルギーコストの上昇、翌年2月にはロシアのウクライナ侵略の影響もあり、肥料価格(21/22年)も上昇し、末端価格は1.5~2倍近くに値上りしました。もっとも代表的な化成肥料の「オール14」の20kg袋は、以前の末端価格が2千円前後であったものが、3千円を超える価格となり、農業生産現場はコロナ感染による需要減退や重油など燃料費の高騰とともに肥料価格の上昇は経営において非常に深刻な問題になっています。
肥料の経済安全保障における対策
前述のように、化学肥料原料の供給や国際価格は、大国の政策や予期できない要因(感染症や戦争など)に左右されます。また、マクロ的には世界人口の増大で食料需要は拡大し、そのための肥料需要も同様と考えられます。
2021年の中国の輸出規制に対しては、リン安をモロッコから手配するなど、供給先を増やすなどの対策が取られました。しかし、化学肥料原料の主要産出国は数か国に限定されている情勢から化学肥料原料の調達は次第に厳しさが増していくものと懸念されます。
そのような情勢下で、肥料供給を増やして行く方法のひとつとしては、国内の未活用資源を利用する対策があります。以下の表は、バイオマス活用推進基本計画(第3次/令和4年9月6日の閣議決定の別紙より引用)に示されている内容で、この計画は肥料だけを対象としたものではありませんが、燃料ガスの回収などから生じた副産物は大量の肥料成分を含んでおり、農業生産者のニーズに合った肥料として製造・流通できれば国内需要のかなりの部分を賄うことが出来ると考えられます。
バイオマスの種類 | 現在の年間発生量(※2) | 現在の利用率 | 2030年の目標 | |
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廃 棄 物 系 |
家畜排せつ物 | 約8,000万トン | 約86% | 約90% |
下水汚泥 | 約7,900万トン | 約75% | 約85% | |
下水道バイオマスリサイクル(※3) | ― | 約35% | 約50% | |
黒液 | 約1,200万トン | 約100% | 約100% | |
紙 | 約2,500万トン | 約80% | 約85%(※5) | |
食品廃棄物等(※4) | 約2,400万トン | 約58% | 約63% | |
製材工場等残材 | 約510万トン | 約98% | 約98% | |
建設発生木材 | 約550万トン | 約96% | 約96% | |
未 利 用 系 |
農作物非食用部(すき込みを除く) | 約1,200万トン | 約31% | 約45% |
林地残材 | 約970万トン | 約29% | 約33%以上 |
※2 黒液、製材工場等残材及び林地残材については乾燥重量。他のバイオマスについては湿潤重量。
※3 下水汚泥中の有機物をエネルギー・緑農地利用した割合を示したリサイクル率。
※4 食品廃棄物等(食品廃棄物及び有価物)については、熱回収等を含めて算定した算定した利用率に改定。
※5 本目標値は「資源の有効な利用の促進に関する法律」(平成3年法律第48号)に基づき、判断基準省令において定めている古紙利用率の目標値とは異なる。
農林水産省も、内資源の肥料利用の拡大に向け、原料供給から肥料製造、肥料利用まで連携した取組を各地で創出していくことを目的とした政策に取り組んでいます。令和5年2月には「国内肥料資源の利用拡大に向けた全国推進協議会」を設置し、各地で国内資源由来肥料の利用拡大に取り組む「ヒト」や「情報」のネットワーク化を後押しするための「国内資源由来肥料の利用拡大プロジェクト」を開始するなど新しい施策を打ち出しています。
インターファームが考える肥料を通じての国内農業への貢献
株式会社インターファームは1997年に設立されましたが、自助努力による肥料の調達先開拓や、ユニークな肥料の開発に取り組んできました。
肥料調達のために、中国やインドネシアに自社関係肥料工場を設立させ、現地で様々な有機原料(菜種油粕、魚滓など)をもとに発酵技術で有機肥料を製造したり、作物の生育に合わせて設計した配合肥料や、肥料成分の放出タイミングをコントロールできるコーティング肥料などいろいろなタイプの肥料を商品化してきました。一方で、為替変動や、中国の肥料輸出に対する関税措置や輸出規制により、海外の自社関係工場からの肥料調達においても国際情勢や相手国の事情による影響を受けてきました。
これまでも当社は、国内の養鶏会社と連携して好気発酵により製造した発酵鶏ふん(3次発酵)を商品化するなど有機原料の活用に取り組んできましたが、2017年より技術革新を目指して、鶏ふんを「メタン発酵」により有機肥料を製造する技術開発に着手し、これまでにない高肥料成分の有機肥料を製造する技術を確立しました。
国内には約1億3千万羽の採卵鶏がおり、1年間に約470万トンの生鶏ふんが排出され、乾燥させると約140万トンの乾燥鶏ふんになります。「ポケット肥料要覧2021/2022(農林統計協会出版)」の「化学肥料の肥料用内需の推移」から「平成28肥年」(最新、H26年7月/H27年6月)の数字を参照すると純成分量換算で、窒素は37万5千トン、リン酸は30万トン、加里は22万8千トンとなっています。
もし、メタン発酵から製造された鶏ふん肥料の成分率を窒素8%、リン酸5%、加里4%と仮定すると、国内需要に対し、窒素では30%、リン酸では23%、加里では24%に相当する量になります。(但し、現在でも鶏ふんは肥料として広く活用されており、メタン発酵技術による鶏ふんの肥料化は肥料としての品質と性能を高めることで活用レベルを向上させることに貢献できると考えられます。)
農林水産省の推進する「みどりの食料システム戦略」では、2050年までに目指す姿として、「輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量の30%低減を目指す」ことや、「オーガニック市場を拡大しつつ、耕地面積に占める有機農業※の取組面積の割合を25%(100万ha)に拡大する」ことを掲げていますがその達成のためにも国内の有機資源を活用した肥料の活用を進めることの重要性は増してくると思われます。